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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)218号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人田中操、同坂晋の上告理由について。

上告人は原審において、被上告人より本件第一審被告鈴木行雄に対する建物収去並びに土地明渡の請求事件における控訴事件につき、右収去請求の目的たる建物の所有権を取得したから、これによつて右訴訟の目的たる債務を承継するに至つたとし、これを理由として民訴七三条により訴訟参加の申立をしたところ、原審は、訴訟の目的たる債務を承継したことを理由として当事者として訴訟に参加するには、必ずや民訴七四条の規定によるべく、同法七三条の規定によることは許されないとし、上告人の参加申立を不適法として却下したことは本件記録上明らかである。しかし、民訴七三条、同七四条の両規定は相俟つて訴訟の目的たる権利または債務の承継人及び相手方に対し既存の訴訟状態を自己のために利用する機会を平等に与えるために設けられたものと解するを相当とする。けだし、権利といいまた義務というも、そは畢竟表裏の関係にあり、単に権利者またはその承継人に対してのみ既存の訴訟状態を利用する機会を与えることは公平の観念に反し妥当を欠くからである。それ故に、民訴七三条の趣意は承継人が自ら進んで既存の訴訟に加入しうることを認めたものであり、また、同法七四条の趣意は従来の訴訟の当事者が承継人を強制して訴訟に参加せしめうることを認めたものであつて、その承継人は訴訟の目的たる権利または債務のいずれの承継人たるを問わないものと解すべきである。民訴七三条は権利の譲受といい、また、同法七四条は債務の承継というも、こは単に通常の場合を例示したに過ぎないものであつて、これによつて、債務承継人の民訴七三条、同七一条による訴訟参加が否定され、また、権利承継人に対する同法七四条による訴訟引受の申立が否定されたものと解すべきでない。

しからば、本件において、上告人が前示収去請求の目的たる建物の所有権を取得したことを理由とし、被上告人と本件第一審被告鈴木行雄との間の建物収去並びに土地明渡の請求事件における訴訟の目的たる債務を承継したとしてなした本件訴訟参加の申立は適法であり、これを不適法として却下した原判決は違法であつて破棄を免れない。

よつて民訴四〇七条により裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋潔 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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